Column | Interview - nésessaire
刺繍に込められた物語と文化を、身にまとう
nésessaire デザイナー 臼井真弓さんインタビュー
COLUMN | 8 APR. 2019
Interview with MAYUMI USUI [ nésessaire designer ]

女性なら誰しも、細やかな刺繍や繊細なレースに心躍る瞬間があるだろう。幼いころに秘められた憧れの気持ちを、大人の女性のために表現し続ける『nésessaire(ネセセア)』。 『nésessaire』とは、ドレスのほつれを直す裁縫箱をあらわすフランス語の「nécessaire(ネセセール)』に、秘密という意味の「secret(セクレ)」のSをプラスした造語だ。 「秘密を綴った記憶のある服の、ほつれを繕いながら長く大切に着続けてもらいたい」、そんな願いが込められている。

中国のおばあちゃんたちが守り続ける、汕頭の刺繍文化

「『ネセセア』は、さまざまな国を旅する中で出会う色や、手仕事の技法に刺激をもらいながらものづくりをしています。特に、中国南部の町、汕頭(スワトウ)で生まれる刺繍の技術はなくてはならない存在」。 そう教えてくれたのは設立当初からデザイナーを務める臼井真弓さんだ。

nesessaire

18世紀にキリスト教宣教師によりもたらされたという、汕頭のレースや刺繍の技術。針と糸だけで描かれる緻密な透かし模様を使った高度な刺繍は、母から娘へと代々受け継がれてきた。 「昔は、ハンカチやテーブルクロスなどがヨーロッパ向けにたくさん作られていたそうです。でも、手間がかかる、高度な技術の手刺繍は、だんだんと機械にとって代わられ、今では受け継ぐ人がほとんといません。『ネセセア』の刺繍も、現地のおばあちゃんたちの手に支えられているのが現状なんです」

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大きなものは、何年もかけて完成することもあるとか。『ネセセア』では、長く受け継がれてきた刺繍やレースをディテールに用い、新しい服に生まれ変わらせる。

手から生まれたものは、手で繕うことができる

人の手が作り出すものには、わずかな糸のテンション差により生まれる豊かな表情がある。着て、洗ってを何度も繰り返していくと風合いが増していくのも、手刺繍ならではの味わいだ。 「それに手仕事の刺繍は、ほころんでも、また手で直すことができます。お直しを希望されるかたも時々いらっしゃって、昔の服を大切に着てくださっているんだと思うと、本当にうれしい。修理は一度汕頭に送り、現地でおばあちゃんたちが直してくれています。『ネセセア』の服は、生地作りやパターン、そして縫製など繊細で込み入った作業がとても多いのですが、そこに物語がたくさん詰まっているんです。作り手のひと針ひと針から綴られる物語が、着る人に受け継がれ、そこからまた新しい物語を綴ってもらえたら」

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幅広い年齢層に愛されているのも、『ネセセア』の大きな特徴だ。 「流行や年齢をあまり意識せずに服を作りたいと思っているんです。ポップアップショップなどで店頭に立つと、若い人はもちろん70代くらいのかたまで、いろんな世代のかたが立ち寄っていかれます。レースやキルト、刺繍って、ずっと長く好きでいられるものですよね」

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服を作り続けることは、未来へ技術を継承していくこと

2018年には15周年という節目を迎え、これから先、ブランドはどんなふうに進化・変化をしていくのだろうか。最後に臼井さんに尋ねると、意外な答えが返ってきた。 「商品の幅を広げたり、違うものをつくることはあまり考えていません。もちろん新しいものを生み出していくことは大切ですが、それよりは、今の刺繍技術を長く受け継いでいけるよう、ものづくりを続けていきたい。刺繍の中には、5年前にはできていたのに、継承者がいなくなったことで途絶えてしまった技術もあります。私が見ているこの15年の間にも失われつつある、貴重な文化なんです。『HABERDASHERY』のショップは、ゆったりとした空気感で、そんな手刺繍の良さやほかとの違いがお客さまに伝わる場だと感じています」

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刺繍の美しさに導かれて手に取った一枚が、貴重な手仕事の文化を未来へとつなぐ役目も担っている。『ネセセア』の服に袖を通すとき。それは遠い異国で紡がれた物語と、文化をまとう瞬間でもあるのだ。

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2018年のテーマは「星月夜」。これは南仏のリル・シュル・ラ・ソルグで出会った伝統キルト「プティ」からインスパイアされ生地を起こした。機械刺繍だが、手書きで図案を起こし、さらにそれを人の手でなぞった線を機械に辿らせるというアナログとの融合により、ハンドワーク技法のぬくもりを再現している。カジュアルにも着られ、シーズンを通して長く活用できるジャケットは、HABERDASHERY別注商品。

nésessaire(ネセセア)
ネセセアとは、ドレスのほつれを直す為の裁縫道具を収納した小物を意味するフランス語の「nécessaire」に、秘密を意味する「secret」のSをプラスした造語。秘密を綴った記憶のある服。ほつれを修理しながらも、長年大切に着続けてもらいたいと願いをこめている。 シーズン毎のコレクションでは、ハンド刺繍などの手仕事に重点をおき、オリジナルのレースやファブリックを使用した商品を展開。様々な国を旅をする途中で出会った、色、手法をインスピレーションに、日本や中国の汕頭で新たな表現をしている。

http://nesessaire.com/

writer | AKARI FUJISAWA
photographer | MASAKI FUJIMURA

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