Column | Interview - Mature ha.
毎日かぶりたくなる、新しい「ふつうの帽子」
mature ha.デザイナー 髙田雅之さん・ユキさんインタビュー
COLUMN | 8 APR. 2019
Interview with MASAYUKI TAKATA, YUKI TAKATA [ mature ha. designer ]

六甲山系を背景に、神戸港からの潮風が入り混じる港町・神戸。築100年を超え、今なお現役で街の象徴として建つ海岸ビルヂングにアトリエを構えるのは、帽子ブランド『mature ha.』だ。このビルの一室から生まれたブランドは、日本国内はもちろん、今ではパリを起点に、ヨーロッパ各地でも愛されている。

かぶる人に沿い、日常にすっと溶け込みながらも、「わたしらしさ」を添えてくれる絶妙なさじ加減。
HABERDASHERY表参道店とともに双方が15周年を迎える今年は、秋冬の定番的な人気を誇る『HOOD CAP』の別注モデルも発売を予定している。そんな『mature ha.』の帽子は、どのように生まれているのか。その物語を訪ね、神戸の街へ降り立った。

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毎日かぶりたくなる、新しい「ふつうの帽子」

「新しい“ふつうの帽子”を作りたい」。 そう話してくれたのは『mature ha.』を立ち上げ、二人三脚で歩んできた髙田雅之さん・ユキさん夫妻。
「帽子の本質を見直したいんです。15年前にブランドを立ち上げたときには、まだ帽子は“ちょっと特別なもの”でした。日差しや冷たい空気から身を守るための機能が最優先で、かぶっていても、どこかしっくりこない。見た目はかわいくても、なんとなく疲れてしまうものも多くて。 いいなと感じるデザインであると同時に、靴を履くのと同じくらい帽子をかぶることが当たり前になるような、そんな心地よさを大切にしてきました」

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一見するとベーシックなのに、ひとたびかぶると唯一無二の表情が生まれる『mature ha.』の帽子。そこにはかぶってこそわかる、面白さと魅力がある。 昨日と今日とは違う洋服を着ているのに、どちらにもフィットする。同じ帽子なのに、なぜだか昨日とは少し違って見える。そのときの気持ちや雰囲気に合わせて微調整できる懐の深さは、実は綿密で細やかなこだわりから成り立っているらしい。

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ベレー帽もニットキャップも、誰もが知っている定番のフォルムがある。でもそこに甘んじず、良さと改善点をどんどん掘り下げていくのはユキさんの役割だ。 「かぶりづらさや、引っかかり、肌触りなど、小さな『もっとこうだったら』を探し取り除いていくんです。シンプルにそぎ落としながら、デザインを根本から見直します。どうやったら毎日かぶってもらえるのか、どんな人でも楽しめるデザインかと問いながら」

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ハットに、リボンのように異素材を巻きつけているのではない。ハットを上下に分割し、異素材のドレープでつないでいるから、伸ばしたり縮めたりとボリュームを変化させて楽しめる“ドレープハット”。ジュートやウールなど、季節に合わせて素材が変わる定番デザイン。

「あたりまえ」の王道の形を壊さずに、ハッとする新しい一面を

「ベレー帽のトップにギャザーで動きをつけたり、ニット帽にプリーツ状のタックを、ハットにはねじったドレープを挟み込んでみたりと、洋服に取り入れるようなディテールを加えながら、帽子そのものに自然な動きを持たせています。気をつけているのは、生地や素材の動きに不自然さがないこと。帽子自体は奇抜にならないよう、ベーシックを大切にしながらデザインをしています」とユキさん。

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たとえば、『mature ha.』といえば思い浮かべる人も多いであろう、箱に収められた「boxed hat」。帽子といえば、外出先で脱いだときのやり場や、かさばる収納に頭を悩ませる、という声も多いことから、ユキさんは箱の中にしまうことを思いつく。 折りたたんだ帽子は、取り出して膨らみを持たせると、ニュアンスだけが残り、その人に合わせた豊かな表情を形づくる。シーンや気分に合わせてフォルムを変えられる自由さが喜ばれ、今では色やブリムの長さ、リボンのバリエーションも増やし、男女問わず人気を博している。その使い勝手の良さから、追加で買い足す人も少なくないという。

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boxed hatの肝とも言える、箱入れの作業。かぶるときに、シワではなく「ニュアンス」となる折り目のつけ方は、並々ならぬこだわりがある。丸みをつけながら、柔らかく、ほどよくしっかりとクセづけていく。感覚を頼りにしているため、長年ユキさんが一人で手がけていたこの作業を、現在、引き継いでいるスタッフはたった一人。
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箱に入れる成形作業を終えた帽子は、このままクセづけるために2日間ほどこのまま休ませる。その様子はまるで焼きあがったパンのよう。
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メーカー、作り手、そして帽子をかぶる一人として。あらゆる側面から「より気持ちよくかぶってもらえる帽子」を追求するふたり。ユキさんのデザインを、それぞれの工房の職人たちへつなぐ橋渡しをするのは雅之さんの役割だ。
「細かな希望を叶えて形にするために、常にチャレンジしてもらっていると思います。一緒に試行錯誤しながらものづくりをしてきました。今の僕たちの商品づくりには、高い縫製技術が必要だけれど、その技術を持った人は、ほんの一握り。だからそこに加えて、自社内で検品をすることで、自信をもって出せるクオリティをコントロールしているんです」

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通常よりも細いブレード(ペーパーコードを編んだ紐状の素材)を使うboxed hatは、縫い目もそれだけ細やかになる。工房から届いたハットに「目落ち」と呼ばれる縫いこぼれがないかどうかを目視でひとつひとつ検品。しっかりチェックできるようになるまで、5ヶ月近くかかるという。このあと、出荷前にはさらにもう一度同じ検品が行われる。
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ここで働くスタッフはみな、ネームプレート代わりのロゼットをつけている。友人でもあるクリエイティブユニット、『WHYTROPHY(ワイトロフィー)』に依頼したものだ。ロゼットとは、「勲章」のこと。胸の勲章は帽子へのプライドであり、スタッフみんながひとつのチームであることを感じさせるようでもある。

そもそも、なぜ帽子というアイテムだけで、ここまでやってこられたのだろう。

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自分には何もない、だからこそ帽子ひとつに心血を注いだ15年

「服飾学校に通っていたころから、帽子は好きでよくかぶっていたんです。そのかたわらで、帽子作家のもとで勉強し、自分で帽子を作ったりもしていましたね。卒業後は帽子メーカーに勤めました」と、雅之さん。 早々に自分の道を「帽子」に見定めたとは、そこには並々ならぬ才能があったのかと想像してしまうが、意外にも「自分には何もなかった」という。 「僕は才能がある人間じゃない、でも何かのかたちで一番になりたかった。 何かを残したい、人よりもいいものを作りたい。それなら、何かひとつに絞り込めば、積み上げていく量も変わるかもしれないと思ったんです。洋服だと、プレイヤーが多いでしょう? 才能がないのなら、何かひとつのことで努力し続けるしかないと」
その思いは、普段から好きでかぶっていた帽子と結びついた。その後、いつかお店を開きたいと思っていたユキさんとともに、帽子のセレクトショップを始め、少しずつオリジナルの商品を増やしながら今に至る。

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事務所には、兵庫・塩屋の異人館“旧・ジョネス邸”が取り壊されるときに受け継いだ梁を使ったアートワークが。
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走り続けてきた15年、そしてこれから

二人は今、新しい試みに挑戦しようとしている。 同じビルの1階、エントランスに面したスペースに、『mature ha. ATELIER & COUNTER』が、間もなくお披露目となるのだ。

「何部屋にも分けて借りていたアトリエの集約と、ケアや修理の対応窓口を兼ねた場所になる予定です。 これまでもお直しの問い合わせをいただくことはたびたびあったのですが、大々的にお引き受けできる体制が整っておらず、残念に感じていました。 お直しだけでなく、帽子と長く付き合っていくためのお手入れアイテムを提案したり、リボンの色や素材をチェンジして新鮮な気持ちでかぶっていただいたり。実際にうちの帽子をかぶって働くスタッフの姿も見られますので、新しい取り入れ方を知るきっかけにもなれば。そんなふうに、帽子が暮らしに溶け込こんでいくために、なんでも相談できる窓口でありたいと思っています」とユキさん。

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壁は一面、薄いグレーの塗りで仕上げた。 一見すると白い世界だけれど、よくよく見るとひんやりとした温度感があるその空間は、流行や好み、性別、あらゆる垣根を越えながら、使い手に最後のかたちを委ねる『mature ha.』の世界にとてもよく似ている。
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「一時はコピー商品の乱立に、眠れないほど胸を痛めたこともありました。でも、スタートした頃に比べて、それだけ帽子そのものが、僕たちの望んできた“当たり前のアイテム”になったということでもあるのかな。僕たちは、きちんと手順を踏みながら、愛着をもって親しくなれるものづくりをしていきたいと思っています。そうやって作るものには、背景がありますから」

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いつものスタイルが、ほんのひとさじでぐんと豊かになるように、帽子と真摯に向き合い、伝え続けてきた『mature ha.』。新しいアトリエを舞台に、さらに物語は続いていく。

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mature ha.(マチュアーハ)
髙田雅之・ユキ
2004年に帽子のセレクトショップ「mature」をオープン、同年からオリジナルアイテムの展開もスタートする。「帽子をあたりまえにかぶる生活を知ってほしい、楽しんでほしい」という想いから、かぶり心地や素材感にこだわり、日常を少し豊かにする「新しい帽子」を提案している。2019年春夏からはメンズラインのディレクションも開始。現在、これまでのアーカイブやものづくりにまつわるインタビューをまとめた本を製作中。2019年9月には、HABERDASHERY表参道店との双方15周年を記念し、『HOOD CAP』別注モデルを発売。

https://www.mature-kobe.com/

writer | AKARI FUJISAWA
photographer | MASAKI FUJIMURA

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